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房一が道平を送つて行くことになつた。
さう云ひながら一寸横目で自分の膝のわきに据ゑたずつしりと厚味のある榧かやの碁盤を眺めた。
「便所に化物が出たそうです。」
「うむ、――え?」
だが、そのとき、この野心の塊かたまりのやうな若い医者に前もつてたゝみこまれていたさまざまな思案が頭をもたげた。この機会をのがしてはならないぞ、さう思ふのといつしよに房一は急に形をあらためた。
「おい」と盛子を呼ぶ声がした。
「さうか。うちの方では山車だしを引いて出るさうだ。それから、みんな紋付に羽織袴といふことだの」
――「それでは、わしの方からお礼を云はなきあならんのです。どうぞ、よろしく願ひますわ」
「ふむ」
突然だつたので、房一は思はずその醜い顔に紅味をうかべながら、軽く頭を下げた。その拍子にごく自然に眼玉と真向ひになる位置を外した房一は、さつきから気を引かれていた馬の方をちよいちよい眺めやつた。
「うむ、さうか。玄関のことか」
「どうぞよろしくお願ひします」
来客の間にほつと寛くつろいだ空気が流れ、直造が袴をさばいて立ち上らうとした時だつた。